ドクターおおばの
医療相談
院長  大場 敏明

元アイドルの乳がん死

Q 「元アイドルの女優が乳がんで亡くなりましたが、20年の闘病生活だったと聞いています。治療法は大きく進化しているのでしょうか。」 (鳥取・I)


A 元トップアイドルの乳がん死は大きな反響をよび、あの臨死のメッセ−ジは強く心を打つものがありました。

 乳がんは、日本の女性に最多のガンです。厚労省の2005年統計では、患者数は4万7583人と報告されています。そして、乳がんの死亡者は、年間1万2千人におよびます。女性が一生の間に乳がんになる可能性は、日本人女性で20人に一人、アメリカでは8人に一人です。

 乳がんはなぜ増えているのか。ガイドライン(乳癌学会)によると、原因は多様で、出産しなくなった、授乳しない、あるいは授乳が短い、高齢初産、中心性肥満などが確実とされています。又、閉経後のホルモン補充療法や放射線治療の既往、乳腺良性腫瘍の既往なども確実な関連が指摘されています。

 一方、通常の医療被曝(低線量)も、リスクを高めるとの危険性が指摘されています。教科書には載らない原因として、原発との関連を、アメリカの研究者が1996年に指摘しています。40年間で乳癌死亡者が2倍となった分析をして、原子炉から160km以内の地域で、乳がんが増加していたのである。一方日本では、50年余で5倍の乳癌発生だが、米国以上に密集した原発との関連は、未調査だが疑われる。

 治療は大きく進歩しています。特に乳房温存手術は目ざましく普及し、60〜70%に及んでいます。これ以上増やすと、取り残しが増えるので限界だと言われています。10年生存率が問題なように、長期の経過観察が必要なのも、乳がんに特有です。(多くの癌では5年生存率が基準。10年以降でも乳がん再発が心配な原因は不明)。

 その再発予防のために、補助療法が格段に進歩してきています。新しいホルモン剤や抗癌剤、分子標的治療薬など、次々と登場しています。その際重要視されてきているのがホルモン受容体などの有無で、諸治療薬の組み合わせを決めています。このように治療プランは緻密で、乳がん専門医での治療が望ましいと言われる所以です。

 温存術を受けたスーちゃんは、結局再発、再発で、癌死になったとは残念ですね。乳がんの強かさに更に注意が必要です。