ドクターおおばの
医療相談
院長  大場 敏明

意識もない90歳の祖母に、『胃ろう』・・・悩んでいます

Q 「90歳を過ぎた祖母が意識もなく、寝たきりです。『胃ろう』で栄養を受けて命を保っていますが、苦しそうにも見えます。そこまでして延命させるのが良いのか、悩んでいます。」(山形・N)


A  「胃ろう」(PEGとも略)は、食べられなくなった時の治療として30年の歴史をもち、比較的安全に、体に必要な栄養を十分摂取できる優れたものです。高齢化の進行とともに、実施数が急増しており、PEGに関しての様々な議論も活発に行われてきています。

 「そこまでして延命させるのが良いのか」とお悩みのようですが、まず結論を述べさせて頂きますと、“苦しそうだからPEGを外して楽にさせたい“との選択(「安楽死」)は出来ないのが現実です。「安楽死」が認められている国では可能ですが、日本では、安楽死行為=刑事罰対象の可能性もあるのです。現在、PEGで生命を維持されている祖母さんの場合は、「延命させるのは、疑問だ」としても、PEGを外すことは良くないことなのです。

 後になってこのような疑問が出てくるのは、PEGを付ける時のご家族の同意が、十分納得したものでなかったためかもしれません。食べられなくなった時に、PEGでの生命維持(ほぼ延命と同じ)を選ぶのか、別の選択肢(出来る範囲での点滴や、栄養補給の治療は受けない事など)にするか、十分な説明を受け、家族で検討し、納得して選ぶことが必要です。

 ご質問者が悩んでおられる一つが、「苦しそうに」見えるとの症状ですね。これは、通常のPEGでは、起きにくいことだと思います。経管栄養の不適切な管理(たとえば注入量が体格に比して多い、注入後の嘔吐・下痢など)とか、呼吸困難になる別の原因(たとえば心肺系の疾患など)がないか、一度検討が必要かもしれません。これらの原因がなく、また医師の診察上もご本人が苦しくなる状態が認められなければ、単に家族が感じるだけのことでしょうか。

 質問者の疑問の根本にある、高齢者のPEGの是非論には回答していませんが、私は、高齢者の生命と人権、ご意思を尊重する立場から更に論議していく課題だと考えています。