ドクターおおばの
医療相談
院長  大場 敏明

「切除した胃は再生されないのか」

Q「数年前に、胃がんで胃を3分の2ほど切除した友人がいます。 手術前の半分ほど食事の量しか食べられないと言っていました。 胃袋は大きくなったり、小さくなったりする収縮性があるものだと 思っていましたが、切除した胃袋は再生されないのでしょうか。」 (群馬・K子)

A 「切除した胃は再生されないのか」とのご質問ですが、結論は、 残念ながら「胃は再生されない」のです。
確かに、胃には伸縮性は ありますが、それは胃壁の筋肉組織の伸縮によるもので、細胞や組 織が再び増えてくる再生とは、全く異なるものです。人体の臓器の 中で再生できるのは、肝臓・皮膚・血液の部分的欠損・減少の時の みで、その他の臓器に再生能力はありません。
 そこで、手術後や、機能廃絶後には、現在の医療では、腎臓移植 ・皮膚移植・角膜移植などの移植医療や人工透析や人工呼吸など人 工臓器医療が行われているのです。臓器移植ができない胃は、手術 で切除されると、若干の伸縮があるものの、切除されたままの大き さ・形で、生涯をすごすことになります。
 一方、近年、「再生医療」が注目されております。疾病や事故に より失った組織や器官を、わずかな細胞を培養したり、器官・組織 の再生を促す生理物質を注射する等して、文字どおり再生し作り直 す治療法です。細胞培養やクローン技術、生理活性物質や遺伝子の 投与になどよっても可能になってきている技術で、進歩してきてい ますが、まだまだ最先端の研究的技術で、胃への応用は困難です。
 ご質問の中のご友人の症状ですが、食べられないなどの症状は、 「胃切除後症候群」と言って、中々辛い場合が少なくありません。 胃切除後のおよそ30〜50%の方にに何らかの不調がある、大変 頻度が高いもので、体重減少,栄養障害、貧血、ダンピング症状, 逆流性食道炎などです。とくにダンピングは、食後に冷や汗、動悸 めまい、しびれ感、失神などとても不快な症状に悩まされる場合が あります。食事の注意や、時には薬物療法も行われます。