原発震災 ― 海外核専門家の目

 


2011年3月19日
ティルマン・ラフ 豪メルボルン大准教授の見解

TILMAN RUFF: 1955年オーストラリア・アデレード生まれ。
モナッシュ大で医学を学んだ後、現職。
非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際運動」の議長。
日本とオーストラリアの呼び掛けで2008年に発足した
国際有識者会議 「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」において
エバンズ共同議長のアドバイザーを務めた


 

プルトニウム再処理中止を 〜 福島の事故、真理を証明

 定住農耕は約1万2千年前に始まった。次の1万2千年の間、この寛大な惑星で子どもが生を授かり、遊ぶことができるとしたならば、それは核兵器の恐怖を根絶し、手に負えない気候変動を回避し得たからだろう。

 1万2千年というのは、決してそれほど長い時間ではない。

 地球の歴史は約46億年。(1万2千年は)人間の400世代に当たり、プルトニウム239の半減期の半分だ。プルトニウムは最も強力な発がん性放射性物質で、原子炉で生成される。

 そして現在、東京電力福島第1原発の3号炉には、大量のプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料が存在する。人々が1万2千年の歴史を振り返った場合、20世紀と21世紀に行われた無類の愚考に頭をかきむしるだろう。

 恒星の原動力たるエネルギーを器用に使い、何万発もの核兵器をつくり、今もおよそ2千発が数分内に発射準備の態勢にある。自らそうすることを選んだ一握りの者たちがこの兵器で、あらゆる者が持つ生まれながらの権利を脅かす権利を主張している。

 太陽より熱い高温を発する兵器は、コーヒー1杯を沸かす程度のエネルギーで致死量の放射能を放出できる。

 この上ない危険な方法で発電のために水を沸騰させる(世界にある)数百の原発に、この恐ろしいパワーが拡散されている。しかも核燃料を使うことで放射能は約100万倍に膨れ上がる。

 数十年もたつと、原子炉自体が放射性廃棄物となり、小さな地球においては、何十万年もの間、完全隔離しないといけなくなる。

 その地球ではマグニチュード(M)8・5以上の地震が20世紀に11回、21世紀の最初の11年間で5回も起きている。その大半に津波が伴った。

 原子炉が増えると、核戦争の危険性がはるかに高まるにもかかわらず、気候変動を遅らせることができるとの理屈で(原発は)正当化されている。

 われわれが最優先すべき共通の責任は明白だ。

 まず、核兵器を非合法化して全廃する、不可逆的で検証可能な国際条約づくりへ向けた交渉を行うことだ。そのためには(核燃料製造技術である)ウラン濃縮を厳格に制限し、使用済み核燃料からプルトニウムの抽出を行う再処理を中止する必要がある。

 次に、大規模かつ迅速にエネルギー効率を向上させ、(エネルギー)需要を減らし、無害な再生エネルギー生産を増大させることで、まん延する地球温暖化を予防することだ。

 間違いを犯しやすいため、制御不能に陥りがちな世界には、既に巨大な破壊を引き起こせる原始的な力が十分に存在する。これ以上必要ない。核分裂と核融合のパワーは、恒星に帰属するものだ。福島での大惨事はこうした真理が正しいことを証明している。