福島原発放射能漏れについて

 


2011年3月17日
矢ヶ崎克馬 琉球大学名誉教授のコメント
(「隠された被曝」の著者・原子力発電所の被曝労働者弁護団の科学的弁護を担当)

 

内部被曝を重視して対応を!

●最大の住民プロテクトは放射能の埃を体内に入れないこと。

●マスクをすること。屋外での食糧配布はやめて屋内での配布とすること。

●雨には当たらないこと

●子どもの屋外での遊びは極力避けること、等々。

1. 身体についた埃は洗えば除去できるが、身体内部に入って内部被曝を起す埃除去できない。基本的には環境が汚染された時には、いかに内部被曝を避けるか、外部被曝・付着被曝を最小にするか、が問われる。

 内部被曝とは、外気を吸い込むことで何年後かに癌になるのが特徴です。だから、徹頭徹尾外気を無防備で吸わないため必ず、命を守るために、マスクをしなくてはならない。映像で除染しているところが映されたが、作業員は完全防毒マスクをしていて、除染される住民はマスクもせず無防備だったことは、許されることではない。

2. ガイガーカウンターで、放射線のほこりのガンマー線だけを拾っても駄目なのはなぜか。それは、外部被曝では主としてガンマー線であるが、内部被曝はベータ線が主でガンマー線とアルファ線もあるので、被曝量は内部被曝の方がはるかに多く被害が深刻になるからだ。(崩壊した原子によるベータ線とウランによるアルファ線が含まれる。)

3. 放射能の埃は多原子からなる微粒子を形成するもので、崩壊は、核分裂で生成した原子はベータ崩壊(ベータ線を出す)であり、燃料のウランはアルファ崩壊が主である。セシウムや沃素はモニターされる原子であって、放射能の埃の正体である放射性微粒子からは多種の原子からの放射線が出ている。すなわち沃素だけプロテクトして済むものではない。放射能の埃:放射性微粒子は放射性原子が一個一個別々の状態ではないので内部被曝は余計に怖いものである。

4. ちなみに沃素-1は甲状腺に集中するので、非放射性の沃素であらかじめ甲状腺を飽和させておけば新たな放射性沃素は定着しないものであるが、沃素だけのプロテクトを強調するのは誤りである。

5. 内部被曝では長期間体内に保持される。この被曝量は無視するべきでない。矢ヶ崎克馬の試算では百万分の1グラム程度の摂取量で1シーベルト程度の被爆になる。マイクロシーベルトどころの話ではない。少量の吸入でも確率的に発がんに結びつくものであり、十万人当たり数十人のがん死亡者を上昇させる。これは10年規模で判明する被曝被害であり、放射性の埃を吸引したことによるのが原因であるということは、患者からの解明では決して追跡できない。ごまかしが効く被曝形態であるが、数としては膨大な被害者群を形成する。

6. 原子力発電は「内部被曝」による犠牲者を無視することによって、初めて成り立つ商売である。欧州放射線リスク委員会の放射線による犠牲者は戦後6500万人に上るという試算を留意すべきである。この中には原発による犠牲者が数百万人に及ぶと考えられる。

7. ちなみに日本の放射性科学陣は内部被曝について世界一鈍感であると言える。

8. 住民の内部被曝を極力避けるような指示、方針を出すべきである。
  内部被曝とは、放射性の埃(放射性降下物)を飲み込んだり吸い込んだりして、身体の中に放射性原子が入ってしまい、身体の中で放射線が発射されて被曝することです。

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 広島・長崎の原爆投下後、アメリカは核戦略の要として「核兵器を通常兵器と同じに見せる」ために内部被曝を隠ぺいしました。その方法は総合的で科学的な装いを取り、戦後の被曝線量評価の体系を支配しました。隠ぺい方法は3種類の分野の「科学的」操作からなります。

(1) 広島・長崎の被爆現場の放射能による環境汚染を極端に過小評価しました(1986年線量評価システム:DS86)。

(2) 被爆者の被害から内部被曝の指標を消し去りました(原爆傷害調査委員会:ABCC、放射線影響研究所(方影研))。

(3) 上記二つのデータをもとに国際放射線防護委員会(ICRP)の被曝線量評価体系から内部被曝を排除しました。それは同時に、この基準により上記二つの科学の名を語った操作を合理化し、放射線科学の現場から内部被曝を見えなくしたのです。困ったことは、このICRP基準はほとんど全世界の医療機関や原子力施設の線量基準となってしまっていることです。

 欧州放射線リスク委員会(ECRR)の試算によれば、戦後6400万人もの人が内部被曝により命を落としています。これに対してICRPの基準に従って試算すれば、犠牲者数は117万人。この差は、原爆、大気圏核実験、原発等の核施設から出る放射性埃による内部被曝です。

 内部被曝の隠ぺいは、「放射線被害を隠すことによって」核抑止論を維持できる市民的認識を獲得するために必須でした。同時に、内部被曝を認めると原発から漏れ出る放射性物質による犠牲者が多すぎて市民的コンセンサスが得られないことから、原発維持にも内部被曝の隠ぺいは必要でした。原発は内部被曝を隠蔽してはじめて成り立ちうる商売なのです。安全神話を作った人々は一体いつまで内部被曝を隠ぺいし続けるのでしょう。

 チェルノブイリ原発事故があった時、全世界に放射性埃がまき散らされました。肥田舜太郎先生の各県別のセシウム降下量と乳がん死亡者の調査によれば、日本では北日本に放射性物質が降り注ぎ、北日本各県の乳がん死亡者の統計調査では各県ともに10年後に10万人当たり十数人の死亡者増加がありました。これを北日本の婦人の人口に当てはめて死亡者の人数を計算すると、2000人(以上)の乳がん死亡者増加となります。これを全てのがんに敷衍すればいったいどれほどの人が命を失ったことでしょう?

 アメリカでも追跡調査がなされてチェルノブイリの埃がアメリカに広く降り注いだ事がモニターされています。感染症でストレスを持っている人に対しては、放射性降下物は即効的に免疫力を低下させ、命を奪います。例えば、エイズの患者さんでは1986年の5月の死亡者は前年5月に死亡した数の2倍を記録しています。健常なグループでは年齢別の統計で、若いほど感受性が高く、25才―34才の年齢層は前年同月の20%増の死亡者を記録しています。

 福島原発の場合は放射性降下物が今後どれほどになるか分からない不気味な状況ですが、チェルノブイリ事故同様な被害がありうることを日本人は覚悟しなければなりません。

 テレビを見ていると、「専門家」の「直ちに人体に影響を与えることはない」という類の弁が続いています。科学的に率直な認識を語り、国民の判断を冷静に引き出すことが必要です。政府や「専門家」は、まやかしの安全発言を続けるのではなく、住民の健康管理に責任ある態度を示すべきです。